AIと本人訴訟 ~ AIが訴訟の敷居を下げる ~
2026年11月04日
技術の進歩によって私たちの「能力」は1つずつ奪われてきた歴史があるという話を聞きました。まず、携帯電話の番号登録機能により電話番号を覚えられなくなりました。次にカーナビです。カーナビがなければどこにも行けなくなりました。では、最後はAIの登場ですが、AIが私たちから奪うのは「考える」ことだそうです。文章作成、要約、意思決定の補助など、AIはいわば「外部脳」として私たちの仕事を大きく変えつつあります。精神科産業医の西上貴志先生は、AIの過剰使用によるリスクを訴えます。最近の精神医療の現場では「一日中AIと会話をして過ごす」や「悩み事があればAIに相談している」といった人からの相談が少しずつ増えているそうです。ここ20年はゲームやスマートフォンの乱用が「時間を奪う娯楽」として問題視されましたが、AIは「思考」「判断」「相談」といった領域にまで入り込んできます。また西上先生は、AIの過剰使用はAIをやめたくても、やめられない「依存」状態にさせ、さらに相手はAIであるにもかかわらず、まるでAIに人格があるかのように感じてしまっているというケースがしばしばみられるといいます。AIに結論を委ねるのではなく、自分の考えを整える補助として使い、最後は自分の言葉で選びなおす工程を残すことがポイントだそうです。(ビジネスガイド2026.5「AIが職場にもたらすメンタル不調を考える」)
最近の職場の労務トラブルで明らかに変わったと感じる場面があります。それは、退職者などが在職中にあったことを理由に損賠賠償を請求したいと会社に書面を送りつけてくることはこれまでにもありましたが、最近はその書面の書き方がどうみても素人が書いたものではないと思うときです。A4用紙3~4枚がしっかりと文字で埋めてあり、弁護士が書いたわけでもないだろうと思いながら、よく読んでみるとAIが書いたとわかります。なぜかというと誤ったことがいくつか含まれているからです。弁護士の向井蘭先生は、本人訴訟が増加しているといいます。(「どう備える!?本人訴訟増加」労働新聞R8.9.7)今、全国の地方裁判所が新たに受理した労働関係訴訟は年々増えていますが、その訴訟の担い手が変化していて、弁護士を立てずに労働者本人が訴える事案が、明らかに増加しているというのです。その背景にあるのはAIです。向井弁護士は、「ここ1年ほどで労働者本人名義の内容証明郵便、質問状、回答書の文面が、以前とは明らかに様変わりしてきた。」と感じていて、AIに事実関係を入力して書面案を作成させ、本人が体裁を整えたと考えないとどうしたっておかしい水準の仕上がりになっているといいます。その書面を見た経営者の反応は「文章の作りが弁護士と変わらない」「あの社員が自力でこれを書けるはずがない」となります。結果として、AIは訴訟の敷居を下げてしまいます。向井弁護士は「これまで、労働者が金銭請求を行う場合に最初に立ちはだかってきたのは費用の問題である」といい、ようするに高い弁護士費用のために訴訟には至らなかったものがこれからは表面化する局面に入ったといえます。そもそも裁判はテレビドラマでよく見るものとは異なり、実際は書面のやりとりで成立してしまうので、AIが効果を発揮します。「費用倒れになるから訴訟は起こらない」という従来からの前提は、AIの普及によって通用しなくなったようです。
AIに質問を投げかけると、瞬時に的確な回答が返ってくることもあって、多くの人がその回答を無条件に正しいものとして受け取ってしまっていると思います。しかし、そこには専門家による精査が行われているわけではないことを十分に認識しておく必要があります。最近もいくつか顧問先様企業に届いたAIが作成したであろう書面を見ましたが、いくつも間違いが含まれていました。しかし、攻撃する側にはそんなことは関係ありません。守る側の企業は、鵜呑みにせず、情報の真偽を見極めていく知識・見識を身につけることが必要だと思います。また、会社で行われている労務管理について、従業員から判例や行政通達を踏まえた主張をされる時代になっているので、きちんと説明ができる備えをしておかないといけません。
特定社会保険労務士 末正哲朗
◆最新・行政の動き
厚生労働省は労働政策審議会雇用環境・均等分科会を開き、育児介護休業法の見直しに関する議論をスタートさせました。令和3年改正法(4年1月から順次施行)の施行から来年で5年が経過することを踏まえたものです。改正附則では、施行後5年を目途として同法の規定について検討し、必要がある場合には所要の措置を講ずるよう定めています。
3年改正では、産後パパ育休の創設や育休を取得しやすい雇用環境整備、妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別周知・意向確認の義務化、育休取得状況の公表義務化、育休の分割取得などについて規定しました。
さらに7年には、柔軟な働き方を実現するための措置を義務付ける6年改正法が順次施行されました。3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対しテレワークなどの措置を導入することや、個別の周知・意向確認を義務付けています。育休取得状況の公表義務の対象企業も拡大しました。
立て続けに制度改正が行われたことを踏まえ、使用者側の委員は、「当面は改正法の内容を企業に定着させることと、施行状況を注視することが重要」と発言。「見直しを検討する場合でも、今まさに必要な範囲に絞るべき」と強調しました。
◆ニュース
メタスキルが重要に AI時代の人材育成で 労経白書
白書では、メタスキルを論理的思考力、批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション能力など、「特定の業務に留まらず応用可能な能力」と定義しました。高学歴で管理職や専門職である労働者はメタスキルを習得している可能性が高く、メタスキルを習得している労働者ほど、自己啓発への意識が強い傾向があるとしました。
職場へのAI導入による事業変革に伴い、労働者の業務遂行時に求められるニーズにも常に変化が生じるなかで、メタスキルの重要性が高まっていくと訴えています。
同社では来年4月から、転居転勤の可否や範囲を毎年選択できる制度の運用を開始します。選択によって基本給に差は付けず、実際に転居転勤している期間に限り、最大月16万円の手当を支給します。
初期配属先に関しては、無限定の「オープンコース」の内定者にも、「企画管理」、「資産運用」などのビジネス領域から第1~3希望までをヒアリングしました。基本的に第3希望までの範囲で決定する予定です。インターンシップや内々定の社員との交流会を通じ、志望先の各部門の仕事内容が把握できているか、長期的なキャリアプランとの整合性が取れているかについても確認しています。
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